グリニャール試薬の作り方 再現が取れない貴方へ

ミントガム中尉
こんな人にオススメ
- 文献や先輩の実験の再現が取れない人
- 収率が安定しない、失敗の原因が分からず困っている人
- そして、初めてグリニャール試薬を作ることになってドキドキしているキミ
ラボを漁れば腐るほど出てくるハロゲン化物
グリニャール試薬の合成はそんな彼らをあっと言う間に求核剤にできてしまう魔法の技術
自由自在にグリニャール試薬を調整できれば、あなたはいつのまにやら有機合成の達人
しかし、こいつは意外と気難しい・・・
ブロモベンゼンからなら合成できるのに・・・
先輩は簡単だよって言ってたんだけど、何も起こらず1時間たちました・・・
この記事ではそんな気まぐれグリニャール試薬ちゃんのご機嫌を取れるアドバイスをまとめていきたいと思います!
あなたの反応容器からマグネシウム片が消えるその時まで
STEP1 再現が取れない原因を確かめよう
何がダメなのかわからない。その状況では解ける課題も解けません。
反応を停止した後に色々分析して再現が取れない原因を探りましょう!
- NMRやGCで解析できる人はまずチェック!
→原料がガッツリ残ってる? グリニャール試薬が生成していないかも(STEP2-1)
原料が消えている人? グリニャール試薬が分解しているかも(STEP2-2)
さらに解析できる人は分解先も同定してみましょう!
脱ハロゲン?ホモカップリング? - NMRやGCがめんどくさい人はTLCだけでも打ってみよう
→三点打ちして原料の残り具合を確認
残っている (STEP2-1)
消えていた (STEP2-2) - まだめんどくさい?そんなあなたは見た目で判断
→今回は特別ですよ。次からはめんどくさがらずにちゃんと解析してくださいね。
マグネシウム片がほとんど変化していない たぶん、生成していない (STEP2-1)
反応前より減っている、小さくなっている たぶん、分解している (STEP2-2)
STEP2 原因別の対策方法
問題の原因がわかったら次は対策!研究も人生も流れは一緒です!
STEP2-1 グリニャール試薬が生成していないあなた
- マグネシウムの活性化は十分ですか?活性化のヒントを見逃さないで!
・ヨウ素法(中尉のお気に入り)
マグネシウム+ヨウ素をエーテル中で撹拌
ヨウ素とマグネシウム被膜が反応し、溶液の色が茶、黄、白と変化
色の変化を確認したら準備完了!
ヨウ素の量が多すぎると分からないので注意、ひとかけら程度にしよう
・ジブロモエタン法(代替案かな)
マグネシウム+ジブロモエタンをエーテル中で撹拌
被膜と反応して気泡(エチレン)が発生
エーテル溶媒がブクブクし始めたら準備完了!
・パワー法(大スケールの時に使える)
溶媒を加えずにマグネシウムと撹拌子を激しく撹拌
不活性ガス雰囲気で数時間から一晩放置
表面が削れて準備完了!
僕は見た目が分かりにくいからあんまり好きじゃないけど先輩はこの方法で何度も成功したらしいです
・洗浄法(手際が大事)
使用するマグネシウムを弱酸で洗浄して酸化被膜を除去
マグネシウムに塩酸(0.1~1.0M)加えて撹拌→吸引濾過で回収→純水洗浄(3回)→メタノール洗浄(3回)→アセトン洗浄(3回)→真空乾燥
その都度やるのはめんどくさいが、まとめて洗浄して不活性ガス下(グローブボックスなど)で保管しておくと便利
僕は塩酸濃度が高すぎてマグネシウムを消滅させた辛い過去があるのでみんなは気をつけて - 反応温度は足りていますか?
カサ高い化合物や塩化物など作るのが難しそうなグリニャール試薬では加熱が必要な場合が多いです。
グリニャール試薬が出てきたら冷却しろ習ったと思うけどたまにはクールな一面を捨てて熱く加熱することも必要!
ただし、加熱する場合は熱暴走に注意して小スケールから検討しましょう。 - 原料の投入速度は適切ですか?
めんどくさいからと一気に入れてしまうと反応が全く進行しなくなることも
滴下ロートやシリンジポンプを使いながら丁寧に入れてみましょう
STEP2-2 グリニャール試薬が分解しているあなた
- 反応器具と溶媒の乾燥は十分ですか?
グリニャール試薬に水分は厳禁!
使用器具は真空ライン+ヒートガンまたは100度以上の乾燥機で数時間乾燥
溶媒は蒸留塔を使ったり、新品の脱水溶媒を教授におねだりするのも大事です - 反応のスケールは足りていますか?
ある程度大きなスケールじゃないと合成は至難の業
最低でも1 mmolは欲しいところ、安い試薬なら5 mmolくらい使うのもありです
スケールが小さいと水分や不純物の影響を受けやすくなってしまいます。慣れないうちはたくさん作ってしまいましょう - ウルツカップリングなどは防げていますか?
STEP2-1で加熱しろと言ったけどホモカップリングが進行しているあなたは話が別!
グリニャール試薬が発生(色の変化や液温上昇)したらスグに水浴か氷浴で冷却
初めから冷却しながらでも良いかもしれません - グリニャール試薬と反応しそうな箇所はありませんか?
エステルや酸性プロトンがある基質だとグリニャール試薬が反応してしまう!
官能基の保護やターボグリニャールの利用など反応点を潰しましょう
STEP3 それでもダメなあなたへの裏技
色々ケアしてもどうしてもダメ。。。
有機合成あるあるですよね。ここでは根本解決にはつながらないけど代替案にはなるかもしれない裏技的な解決法を挙げていきます
- 先輩に聞いてみよう
このグリニャール試薬は撹拌すると全く合成できないんだよね、こんな謎テクニックを聞いたことがあります。
論文や教科書に載っていない常識からズレた独自のノウハウがあるのも有機合成の面白いところです。実際に直面すると頭に来てしまいますが。。。
元も子もないかもしれませんが、経験者に聞くのが一番の解決法でしょう。 - 基質を代えられないだろうか?
例えばクロロをブロモにする、ターシャリーブチルをイソプロピルにするなど反応しやすくしちゃいましょう。
マイナーチェンジでなんとかできないか相談してみよう。
全合成の途中だったら難しいけど、構造活性相関とかならマイナーチェンジをしても研究は進みます!むしろその先にお宝があるかも - 他の金属試薬で代用できないかな?
マグネシウムにこだわる必要はありますか。
ブチルリチウムを使ったリチオ化など別の手法に変更してみませんか。
目的通りに進められなくても全くできないよりはマシだと思います。教授や上司と相談して別ルートを考えてみるのも一つの手ですよ。
できないというのも大事な結果、そこから先の方針変更はボスに委ねてしまいましょう!
STEP4 ミントガム中尉のグリニャール試薬調整法
最後に、僕のグリニャール試薬調整ファーストチョイスを紹介します
- 反応容器、撹拌子、シリンジ針、実験に使う全てを乾燥
合成直前に真空ラインに繋いでヒートガンで5-10分くらい加熱
その前に乾燥機やデシケータで事前乾燥を忘れずに - マグネシウム、脱水THF(もしくはジエチルエーテル)、ヨウ素を撹拌
エーテル溶媒は吸湿しやすいから注意
可能なら直前の蒸留や溶媒精製装置を利用
難しければ市販の脱水溶媒で
ヨウ素の色が薄くなるまでしっかり撹拌 - 溶媒で薄めた基質を1/5ほど滴下
反応溶液の色が変わるor液温が上がってきたら順調です
しばらく待っても変化がなかった時は還流温度より少し低いくらいで加熱します。 - 調整開始が確認できたら残りの基質をゆっくりと滴下
繰り返しになりますが、滴下速度には注意しましょう - 濃度を測定して次の反応へ
滴下については別記事で詳しく説明します
おわりに
グリニャール試薬は教科書にも載っている身近な存在なんですが、いざ合成しようとするとなかなか難しいですよね。
この記事や周りの経験者のアドバイスを参考に頑張ってみてください。
グリニャール試薬が合成できるようになったあなたは一人前の有機化学者です!
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